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新創業融資を受けやすい業種の条件を考える

なぜ、通所介護は創業融資を受けやすいのか?

資金調達のサポートをしていると、

「公庫の新創業融資が受けやすいビジネスってありますか?」

このように質問されることも多いです。

特定の業種・業態によって融資が受けやすいという実態があるのかどうか?ってことですね。

確かに、業種によっては、創業融資が受けやすい傾向というものはあります。

ただし、誤解の無いように言えば、融資を受けるためには、創業者のこれまでの経歴、自己資金の額、事業計画書の説得力等が総合的に優れていることは当然の前提条件です。

「事業の経験が全く無い、自己資金もゼロ」のような状況で融資の審査に受かるような業種はそもそも存在しません。

しかし、当該業種の全体的な傾向として、融資が受けやすい(金融機関側からすれば融資をしやすい)構造的な要因(ビジネスモデルや法制度の仕組み、市場環境)が存在する業種というものはあります。

例えば、通所介護(デイサービス)に代表されるような、介護保険事業は、比較的融資が受けやすい業種です。
みなさん、通所介護(デイサービス)って分かりますか?

高齢者に対して、入浴や食事、リハビリ(機能訓練)等を行う介護施設のことです。

通所介護(デイサービス)は開業に際して日本政策金融公庫からの新創業融資(無担保無保証人)が受けやすい業態の1つです。

ちなみに、NPO法人のような非営利法人で日本政策金融公庫の創業融資が成功している事例は、ほとんどが介護保険事業等の福祉分野での創業です。
実際、創業をお手伝いしているデイサービスでは、公庫の新創業融資(無担保・無保証人)で約1000万円の資金調達に成功しています。

参考:デイサービス開業で創業融資に成功した事業計画書の実例はこちら

ではなぜ、通所介護(デイサービス)は創業融資が受けやすいのか?

その構造的な理由、背景を分析することで、「融資を受けやすい業種の条件」が分かります。

介護事業以外の分野で起業予定の方も、ぜひ参考にしてください。

1.通所介護(デイサービス)は市場が拡大傾向

これから起業する人(新規参入者)にとっても、創業融資を行う日本政策金融公庫等の金融機関側にとっても、当該業種の市場が拡大傾向にあるのか、逆に縮小傾向にあるのかは、重要な判断要素です。

その点、通所介護(デイサービス)は、高齢化社会を背景にして毎年市場は拡大傾向です。

厚生労働省の資料によれば、平成25年度の通所介護(介護予防サービスを含む)の費用額は約1.5兆円です。この費用額は、平成13年度(約3700億円)の約4倍にまで拡大しており、近年は市場規模が毎年約1000億円ずつ増加しています。

我が国の財政上の制約もあり、介護給付抑制の方向で政策は議論されていますが、今後も高齢者(要介護者)が増えることはあっても、減ることは絶対にあり得ません。

特に、2025年には団塊の世代が75歳以上になり、後期高齢者の急増が予想されています(いわゆる「2025年問題」)。

当面は、デイサービスが不要になることも考えられません。むしろ、地域との連携を強化したデイサービスが今後もますます必要とされているという社会背景もあります。

だからこそ、異業種からデイサービスの参入が増えているわけです。
日経新聞でも、「デイサービス 異業種からの参入盛ん」と記事で取り上げられています。
参考)日経新聞の記事 

2.通所介護(デイサービス)は介護マーケットの中心

数ある介護保険事業(介護サービス)の中でも、なぜ通所介護なのか?

それは、通所介護は各種介護サービス中でも中心的なサービスだからです。

介護サービスの中心というと、「訪問介護」を想像する方も多いかもしれません。

しかし、それは正しい認識とは言えません。

我が国の介護サービスの中心は、通所介護(デイサービス)であり、それを訪問介護等の他の介護サービスが補完していると理解する方が適切です。
その理由は、各種介護サービスの種類別に、どれだけ介護保険が支出されているのかの統計を調べれば分かります。

サービス別の費用額割合を見ると、介護サービスの中の大きな分類として、「居宅サービス」(48%)があり、その中の約3分の1(16.4%)を、通所介護(デイサービス)が占めており、居宅サービスの中で通所介護がもっともシェアが高いことが分かります。

次いで、訪問介護(10%)、通所リハビリテーション(5.3%)などがあるのです。

介護サービスのマーケットの中心は、「居宅サービス」であり、その中でも「通所介護(デイサービス)」なのです。
※上記の数値は「介護保険制度の現状と今後の役割」(厚生労働省老健局総務課)による。

3.通所介護(デイサービス)は利益率が高い

これから起業する人(新規参入者)にとっても、創業融資を行う日本政策金融公庫等の金融機関側にとっても、当該業種の平均的な「利益率」は重要な判断要素です。

もちろん、事業者ごとによって当然利益率は異なりますが、当該業種の平均(全体的な傾向)として、「どの位もうかるビジネスなのか?」という視点は、融資の可否を判断する際の重要な要素になります。

その点、通所介護は、各種介護サービスの中でも、利益率が高い数値で推移している介護サービスなのです。

介護業界の利益率を知るためには、厚生労働省が公表している「介護事業経営実態調査」という資料から介護サービス種類別の「収支差率」(利益率のことです)という数値を調べます。

平成26年10月公表の「介護事業経営実態調査」によれば、通所介護の「収支差率」を過去6年遡って調べると次の通り推移しています。
7.3%(H20年)→11.6%(H 23年)→10.6%(H26年)

平成26年の通所介護の10.6%という利益率は、各種介護サービス全体の中でも上位3位に位置付けられます。

平成26年の介護サービス全体での利益率の平均は約8%ですので、通所介護の利益率は介護サービス全体の平均を超えていることが分かります。

ちなみに、訪問介護の利益率の推移を見ると次の通りです。
0.7%(H20年)→ 5.1%(H 23年)→ 7.4%(H26年)

訪問介護の利益率は、通所介護に比べて、かなり低い数値で推移していることが分かると思います。

毎年少しずつ利益率は改善されているように見えますが、最も高いH26年の7.4%という数値でさえ、介護サービス全体の平均を下回っています。

この統計から分かることは、通所介護は安定して利益が出ているが、訪問介護は利益が出にくいということです。

ちなみに、介護サービスという点では同じでも、通所介護は融資を受けやすく、訪問介護は融資を受けにくいです。それは、このような利益率の大きな違いがあるからです。

私は、「訪問介護を開業したいです」というご相談も多く受けます。

その場合、

「利益率の低いビジネスを単体で始めるつもりですか?」

と必ず質問します。

上記で説明したような利益率等も含めた業界構造をしっかりと把握した上で、あえて訪問介護開業を希望するならば良いのですが。

創業する業種における平均的な利益率は、公庫の融資審査でも当然考慮される要素です。

平均的な利益率を無視して、「自社だけ大儲けできます!」というような事業計画書で説得力を出すことは難しいので、利益率の低い業種で創業する場合には注意が必要です。

4.ビジネスモデルが明瞭(分かりやすい)

創業融資の審査というと、「今までに社会に存在しないような新しい事業・新規性のあるビジネスをしなければ評価されないのではないか?」と心配されている方がいます。

しかし、それは誤解です。

むしろ、「世界初の斬新なビジネスです!」というような事業は、逆に、融資の審査にはマイナスです。

日本政策金融公庫の新創業融資等の創業時の融資の審査においては、ビジネスモデルが明瞭(分かりやすい)で、どこにでもある、ありふれた凡庸な業種・業態の方が融資の審査に受かりやすいです。

なぜならならば、創業融資の審査を担当する日本政策金融公庫等の金融機関側が、お金の流れ、売上の規模等を経験上想像しやすいからです。

公庫の担当者が全く理解できないような「斬新なビジネス」よりも、例えば、建設業、飲食業などの、ビジネスモデルが明瞭な、極めてありふれた業種で起業した方が創業融資に受かりやすいです。

その点、通所介護(デイサービス)のような介護保険に基づく事業は、何ら珍しくもないありふれた業種あり、ビジネスモデルが極めて明瞭です。

高齢者が施設で介護サービスを受けたら、介護保険料から介護事業者(施設の経営者)へ料金が支払われるというビジネスモデルは、法令で決まっています。

しかも、介護保険に基づく介護サービスの料金は、法令で決まっており、基本的には全国共通です。

通所介護(デイサービス)は、業態が法令で決まっており、極めて明瞭なビジネスモデルなのです。

だから融資が受けやすいのです。

5.売上が安定しやすい業種

日本政策金融公庫が融資をする以上は、資金を確実に返済してもらう必要があります。

そのため、融資した資金を確実に返済してもらえる可能性が高い業種・事業者には、融資をしやすいことになります。

融資した資金を確実に返済してもらえる可能性が高い業種とは、別な言い方をすれば、経営(売上)が安定しやすい業種と表現できます。

その点、通所介護(デイサービス)は、金融機関側から見ると、売上が安定しやすい業種であり、資金の返済可能性が高い業種だと評価できるのです。

なぜか?その理由は主に3つあります。

(1)売上の9割が介護保険料で保証されるから

デイサービスの料金は、1割が利用者の自己負担で、9割が介護保険料から施設に支払われます。

通常のビジネスにおいては、一般的に言って、貸し倒れのリスク、料金の未回収のリスクが常に付きまといます。

しかし、介護保険に基づくデイサービスは、高齢者の自己負担は1割で、残りの9割が国から施設に支払われるわけです。

仮に、高齢者が1割を払わずに逃げたとしても、残りの9割の料金は確実に、介護保険料という公的な資金から施設に支払われるわけです。

デイサービスは料金の未回収リスクが極めて低い業種なのです。

(2)価格競争が生じない業種だから

しかも、デイサービスの料金は法令で決まっているため、事業者が勝手に変えることはできません。全国一律です。通常のビジネスのように、価格競争(安売り競争)によって事業者が疲弊するということは、制度上あり得ません。

法制度の仕組み上、ビジネスとしてこれほど安定している業種は、介護保険事業以外にはなかなかありません。

(3)ブランドスイッチが生じにくい

さらに言えば、デイサービスはブランドスイッチが生じにくい業種です。

ブランドスイッチとは、消費者がこれまで購入していた 商品の銘柄を変えることです。

ようするに、お客さんが競合他社へ乗り換える状況ですね。

デイサービスは、このブランドスイッチが生じにくい業種です。

お客さん(高齢の要介護者)が、あるデイサービスを利用し始めたら、基本的にはずっとそのデイサービスに通い続ける可能性が高いのです。

高齢者の立場からすれば、ひとたび良い介護施設に巡り合って慣れ親しんだならば、そこをずっと使い続けたい(通い続けたい)と考えるのは自然なことです。

もちろん、介護事業者として質の低いサービス、不適切なサービスを提供していれば、別な介護施設にブランドスイッチされてしまいますが、適切なサービスを提供してる限り、そのようなブランドスイッチは起こりにくいのです。

施設の利用者(契約者)が一定数増加するまで(損益分岐点まで)は赤字ですが、一度獲得した顧客(高齢者)が離れて行くことも少ないビジネスです。

一度獲得した顧客(高齢者)が離れていくとすれば、その高齢者が死亡するか、逆に元気になって介護施設を利用する必要がなくなった場合(要介護認定において、自立・非該当になった場合)くらいです。

契約者が一定数を超えれば、デイサービスは安定しやすいストック型のビジネスなのです。

まとめ

ここまで通所介護を例に出して融資が受けやすい理由を説明しましたが、介護保険事業に限らず、皆さんが希望する業種で融資の申請を行う際にも、上記のように公式な統計から数値を出して、業界の状況を客観的に分析、説明できる必要があります。

また、公庫の立場から考えて、融資を出しやすい構造的な要因・仕組みが存在する業態なのかどうか、起業予定の業種について検討してみてください。

それによって、皆さんが当該業種で新規参入することの妥当性を、日本政策金融公庫や銀行の担当者に説得力を持って伝えることができるのです。



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